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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)9599号 判決

原告

木村岩造

被告

田岡運輸有限会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金六一九万四二七二円及びこれに対する昭和四八年五月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告)

一  被告らは各自原告に対し八三七万四九三〇円及び内金七八八万四九三〇円に対する昭和四八年五月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

原告は次の交通事故により傷害を負つた。

(一) 日時 昭和四八年五月二九日午後二時五分頃

(二) 場所 千葉市長作町一三九六の二路上

(三) 被告車 大型貨物自動車(千葉一き一一三一)

運転者 被告高橋

(四) 原告車 普通貨物自動車(習志野四四の二九〇三)

運転者 木村一実

同乗者 原告(助手席)

(五) 態様

八千代方向から幕張町方向へ直進中の原告車に、左側道路外から後退してきた被告車が衝突した。

(六) 傷害の部位程度

左上腕骨前腕骨複雑骨折、左肘関節挫滅、左上肢挫滅創、皮膚欠損広汎

(七) 治療経過(三橋整形外科耳鼻科病院)

(1) 昭和四八年五月二九日から同年一〇月三一日まで一五六日間入院、受傷時の左上肢前腕の挫滅、骨片の露出、左上肢前腕の動静脈各切断による出血多量のためシヨツク状態の重篤入院、入院後抗シヨツク療法を施行、切断された動静脈の各縫合、骨片の切除、受傷部位の異物摘出、上腕骨観血的整復固定術及び輸血を受ける。手術後、広汎な皮膚欠損に対し皮膚移植術を受け創は閉鎖したが、血精肝炎を併発した。

(2) 昭和四八年一一月一日から昭和四九年九月まで毎月四ないし五日通院、その後も通院中

(八) 後遺症

左上肢に長さ約三五センチの線条痕様の瘢痕、経約一〇センチと経六センチの楕円形の瘢痕、左上肢肘関節の欠損(同部の骨は粉砕されて欠除、そのため上下部は皮膚及び筋肉によつてのみつながり、肘以下の左上肢は宙づりになつている。)及び左上肢指の硬直。

二  責任原因

(一) 被告会社は被告車を所有し自己のため運行の用に供しているものであるから自賠法三条による損害賠償義務を負うものである。

(二) 被告高橋は被告車を運転し後退で本件事故現場路上へ進入しようとしたところ、後方不注意のため、おりから路上を進行している原告車に衝突させたものであるから民法七〇九条による損害賠償義務を負うものである。

三  損害

(一) 入院中の付添看護費 二七万二〇〇〇円

原告の妻木村寿々は、原告の入院中の昭和四八年六月一八日から同年一〇月三一日までの一三六日間付添つたので、一日二〇〇〇円と評価し二七万二〇〇〇円の損害を受けた。

(二) 入院雑費 七万八〇〇〇円

入院一五六日、一日あたり五〇〇円として七万八〇〇〇円。

(三) 通院交通費 四六八〇円

(四) 休業損害 九六万円

原告は本件事故前の三カ月間で一八万円(平均日額二〇〇〇円。年収七二万円。但し賞与を加算していないので控え目な主張である。)の収入を得ていた者であるが、昭和四八年五月二九日から昭和四九年九月二〇日までの四八〇日間休業を余儀なくされ九六万円の損害を受けた。

(五) 後遺症による逸失利益 二四九万円

原告は明治三六年七月一日生(昭和四九年九月二〇日現在七〇才)で平均余命の範囲内でさらに五年間就労可能であつた者であるが前記後遺症(自賠法施行令別表五級二号に相当する。)のため労働能力の八〇%を喪失したものであり、年収七二万円を基礎とし、ライプニツツ式により年五分の中間利息を控除(係数四・三二九四)した逸失利益の現価は二四九万円(万円未満切捨)となる。

(六) 慰藉料 六三〇万円

前記傷害の部位程度、治療経過、後遺症その他によると本件における原告の慰藉料は六三〇万円を下らない。

(七) 弁護士費用 五〇万円

原告は本訴の提起を原告訴訟代理人に委任し五〇万円を支払う旨約し損害を受けた。

四  損害の填補 二二二万九七五〇円

原告は自賠責保険から右金員の支払を受けた。

五  結び

よつて原告は被告らに対し損害賠償として八三七万四九三〇円及びこれに対する本件事故後の昭和四八年五月三〇日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(抗弁に対する答弁)

一  被告会社の運行支配の喪失の抗弁に対する答弁

被告会社従業員金丸実は自動車修理業を営む被告高橋方へ被告車を搬入し花見川ゴルフセンターへの通路上に停車した事実は認め、金丸実が被告車を被告高橋へ引渡しを完了した旨の事実は否認する。被告車の被告高橋への引渡しはいまだ完了していない。

二  被告らの過失相殺の抗弁に対する答弁

右抗弁事実中、原告が時速五〇キロで走行中の長男木村一実の運転する原告車の助手席に同乗し涼をとるために左肘を左側窓枠に乗せていて傷害を負つた事実及び木村一実が左前方約一五メートルの地点に被告車を発見した事実は認める。原告の過失及び木村一実の過失はいずれも否認する。

原告は始終前を見ていたが、一寸脇を見て前を見た瞬間に本件事故が発生したものである。運転者でなく助手席同乗の者の脇見自体は過失相殺にいう過失にあたらない。また助手席の窓枠から外へ左肘を五センチ出したこと自体は危険でも何でもなく被告高橋の過失の大きさに比較し過失相殺すべき過失とはいえない。さらに木村一実が左前方約一五メートルの位置に被告車を発見したとき前方約五〇メートルの対向車線上に対向直進車があつたので木村一実としては右転把等の措置をとりえなかつたものであるから回避措置の不履行をもつて過失とはいえない。

被告会社の右抗弁中原告が被告車の自賠責保険から本訴請求外の主張の費目についての合計二九万八八四〇円を填補受領した事実は認める。

三  被告会社の損害の填補の抗弁に対する答弁

被告会社の抗弁三の事実は認める。

第三被告会社の主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求の原因一の冒頭の事実と(一)ないし(五)の事実は認め、(六)(七)(八)の事実は不知。

二  同二(一)の事実中被告会社が被告車の所有者である事実は認め、責任は争う。

三  同三の事実は不知。慰藉料は三八六万円程度が相当である。

四  同四の事実は認める。

(抗弁)

一  運行支配の喪失

被告会社従業員金丸実は被告車を修理のため自動車修理業を営む被告高橋方工場敷地内に搬入し、被告高橋の事務所に入つて、被告高橋に修理を依頼し、被告高橋にエンジンキーをつけたまま被告車を引渡した。金丸実が被告車を搬入した場所は、花見川ゴルフセンターへの通路上であるが、右通路は被告高橋の父の所有地であり、被告高橋の工場駐車場が満車の時は、修理依頼者は、右通路上に自動車を搬入していたものである。その後被告高橋は、ゴルフセンターへ出入する車の邪魔になるので、被告車を移動させるために後退して道路に出たところで本件事故を惹起しているものであるから、これは修理に必要な範囲での運転行為というべきである。そうすると修理依頼者である金丸実が被告車の取扱いに介入した等の特別の事情のない本件においては、金丸実が被告高橋方に被告車を搬入引渡したと同時に、被告車に対する運行支配は被告会社から被告高橋に移転し、この時点で被告会社の被告車に対する運行支配は喪失されたことが明白である。よつて被告会社は自賠法三条による運行供用者責任を負わない。

二  過失相殺

原告は時速五〇キロで走行中の長男木村一実運転の原告車の助手席に同乗し涼をとるため事故現場の二キロ手前から左側の窓枠に左肘をのせ車外に五センチ位左肘を出しており、事故の前には脇見をし、後退してきた被告車のフツクに接触したものである。木村一実は、原告の右危険な同乗方法について何ら注意しないのみならず、時速五キロ位の速度で後退してくる被告車を約一五メートル前方に発見しながら、脇見している原告に危険を知らせたり、右転把して衝突を避ける等の回避措置を全くとつていない。右の原告自身の過失及び被告者側の過失としての木村一実の過失を斟酌し、過失相殺すべきである。

なお原告は被告車の自賠責保険から本訴請求外の治療費(昭和四八年五月二九日から同年九月三〇日までの分)として二三万九〇一〇円及び本訴請求外の付添費(昭和四八年五月二九日から同年六月一七日までの分)として五万九八三〇円、合計二九万八八四〇円を受領しているので総損害に計上し過失相殺後の残損害から控除すべきである。原告は後記のとおり右保険から本訴請求に充当すべき分として一二五〇円を受領している。

三  損害の填補

原告は被告車の自賠責保険から本訴請求に充当すべき分として一二五〇円を受領している。

第四被告高橋の主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求の原因一の冒頭の事実と(一)ないし(五)の事実は認め、(六)(七)(八)の事実は不知。

二  同二(二)の事故態様に関する事実は認め、被告高橋の不注意は争う。

三  同三の事実は不知。

四  同四の事実は認める。

(抗弁、過失相殺)

被告会社の従業員金丸実は、事故当日の午後二時頃、被告高橋の営む自動車修理業の店舗横の通路(花見川ゴルフ場等への出入口の公道)上に被告車を停車させ右通路側で小用を足していた。たまたま花見川ゴルフ場方面から右の通路を通つて乗用車がきて通行の妨害となつている被告車に対しクラクシヨンを鳴らして被告車をよけるように合図をした。金丸実は小用中であり、被告高橋は右状況を店舗の中で見ていて乗用車の通行を妨害している被告車を移動させてあげようという気になつて、運転台に乗り、被告高橋の事務所側に寄せるべく最徐行で右後方を見て後退させた。木村一実は原告車を運転して八千代方向から幕張方向へ進行し左前方約一五メートルの位置に後退中の被告車を発見したが進路変更もせず直進し被告車と衝突し、その際原告は原告車の助手席に左窓から左腕を車外にだして乗つていたため傷害を負つたものである。衝突地点は路側帯から約〇・七メートル、センターラインから約二・六五メートルの地点であるから木村一実はセンターラインをこえずに容易に衝突を回避し得る状況にあつた。しかるに同人は約一五メートル前方に被告車の後退を確認しながら漫然進行したものであり、前方注意義務違反の過失及び衝突回避措置をとらなかつた過失が明らかである。また原告は車外に腕を出すきわめて危険な乗車方法をとつたこと自体に過失があり、さらに前方を注視し腕を被告車に衝突させることを回避すべき義務に違反した過失が明らかである。右の原告自身の過失及び被害者側の過失としての木村一実の過失を斟酌し、相当の減額をすべきである。

(被告高橋が本件事故に関与したのは右の事情によるものであり、いまだ修理のために引渡を受けた後でもなくまた修理の依頼を受けた後でもないのであるから、被告会社の運行供用者性は喪失していない。つまり被告会社は被告車の運行供用者である。)

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生、被告高橋の責任原因、過失相殺

(一)  請求の原因一の冒頭の事実と(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  右事実と成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、三、第三号証の一、二、乙第一号証の一ないし九、証人金丸実の証言、原告並びに被告高橋各本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

(1)  本件事故現場は、被告高橋の営む自動車修理業高橋商会の面する八千代方向から幕張方向へ通じる車道(有効幅員約六・七メートル、両側に幅員約〇・六メートルの有蓋側溝がある。以下表道路という。)上である。高橋商会前は道路に面して間口約一九メートル奥行約一三メートルの部分が駐車場様の広場を形成しており、そのうち西側部分は花見川ゴルフセンターへの通路(被告高橋の父の私有地)となつている。

広場から表道路へ自動車を運転して後退で出る際の見通しは両側の塀に妨げられて悪い。

(2)  本件事故当時右広場には大型貨物自動車、軽乗用自動車等が駐車していた。

(3)  本件事故により、被告車は右後方バンパーを凹損し、原告車は左側面車体を小破した。

(三)  右(一)(二)の事実と前掲証拠を総合すると次の事実が認められる。被告高橋は大型貨物自動車の被告車を運転し前記花見川ゴルフセンターへの通路へ時速約五キロ位で後退進行するに際し、誘導員を配置することなく、右後方のみに気をとられ左後方の安全確認を怠つたまま進行したため、おりから八千代方向から幕張方向へ進行中の原告車の左側面助手席付近に被告車の後部を衝突させ、原告車助手席に左肘及び左上腕部を窓枠に乗せて車外に出した姿勢で同乗していた原告に傷害を負わせたものである。原告の実子木村一実は原告車を時速約五〇キロで運転して八千代方向から幕張方向へ表道路を進行し左前方約一五メートルの有蓋側溝付近を時速約五キロ位の速度で後退進行してくる被告車を発見したが、被告車は停止するものと考え、クラクシヨンを吹鳴したり、原告に対し窓枠から左肘等を出していることの危険を告知する等の事故回避措置をとることなく進行し前記の状況の衝突事故に至つた。原告は左肘のみを窓枠に乗せていた旨主張し原告本人尋問においてもこれに副う供述をしているが、後記認定の傷害の部位程度に照らすと左上腕部も窓枠に乗せていたものと判断でき、右供述部分は採用し得ない。

(四)  右事実によると被告高橋には被告車を後退運転するに際し後方注意義務違反の過失があること明白であるので、被告高橋は民法七〇九条に基づき本件事故による原告の損害を賠償すべき義務を負う者である。

右事実によると木村一実にもクラクシヨンの吹鳴等事故の回避措置をとらなつかた点で不注意のあつたことは否定し得ないが被告高橋の右過失に対比し検討すると過失相殺として斟酌するに足りる程度の不注意とは判断できない。しかし原告の同乗中の右の姿勢は極めて危険なものであり、前記衝突事故の態様によると右の姿勢をとつていなければ後記のような重大な傷害には至らないものと推認できるので、原告には損害の拡大につき不注意があつたものといえるので、被告らに対して支払を命ずべき損害賠償額の算定に際し一割の過失相殺をするのが相当である。

二  被告会社の責任原因

被告会社が被告車を所有している事実は当事者間に争いがないので、特段の事情のない限り、被告会社は被告車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故による原告の損害を賠償すべき義務を負う者である。

ところが被告会社は、自動車修理業を営む被告高橋に被告車の修理を依頼し既に引渡完了後の事故であるから、被告会社は被告車に対する運行支配を喪失しており運行供用者ではない旨抗弁するので判断する。前掲甲第二号証の一、二、証人金丸実の証言及び被告高橋本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。被告会社は運送業者で被告車を運送事業の用に供していたものである。被告高橋は高橋商会という屋号で自動車修理業を営む者である。被告会社は被告高橋に対し本件事故前五年位、保有車両の修理等を依頼してきたが、大きな修理のときは事前に被告高橋に連絡して後、修理を要する車両を被告高橋方に搬入していたが、運転手が運送業務に従事中に、車両の調子がおかしいと判断して修理を依頼するときは事前の連絡なしに修理を要する車両を被告高橋方へ搬入する場合が多かつた。後者の場合には、当該運転手は直ちに修理が可能か否か修理に要する時間はどの程度か等を被告高橋ないしその従業員から確かめた上で、被告会社に連絡して、指示等を受け、その後の勤務方法を決定していた。被告会社の従業員金丸実に被告車を運転して被告会社の運送業務に従事中、被告車の泥除け部分(タイヤハウス)に故障のあることを発見し修理を依頼すべく、被告高橋方に赴いたところ、高橋商会事務所前は駐車車両でいつぱいで駐車の余地がなかつたので前記花見川ゴルフセンターへの通路上に、エンジンキーをつけたまま、やや斜めに駐車した後、花見川ゴルフセンター東側の塀の壁付近で小用を足していた。そのとき、花見川ゴルフセンター方向から前記通路を乗用車が進行してきて、通路の妨害になつている被告車にクラクシヨンを吹鳴して合図をした。高橋商会事務所内にいた被告高橋はこれをききつけて外にでてきて右の事態を知り、自ら被告車に乗り被告車をさらに東側へ寄せるべく後退運転中に本件事故に至つた。その際金丸実は被告車の移動の妨害になつていた軽乗用自動車を移動させようとしていた。本件事故は金丸実が、前記通路上へ被告車を駐車してから一ないし二分後のことで、同人はいまだ被告車の修理を要する個所を被告高橋ないしその従業員に現実に指示説明したりするに至つておらず、したがつて直ちに修理が可能か否か、修理が可能としてもどの程度の時間を要するか等についでの説明を受けておらず、その後の勤務方法についての態度を決めていなかつた。右事実によると被告会社は従業員である金丸実を通じいまだ被告車に対する運行を支配していたものと判断でき、いまだ被告車に対する運行支配が被告高橋に移動し去つたものとは判断できない。

よつて被告会社の右抗弁は理由がない。

三  損害

(一)  傷害の部位程度、治療経過、後遺症

成立に争いのない甲第九号証の一、二、三、原告と被告高橋との間で原本の存在成立に争いがなく原告と被告会社との間で原告本人尋問の結果により原本の存在成立を肯認し得る甲第四号証の一、二、三及び右供述によると、原告本件事故により請求の原因一(六)の傷害を受け、同(七)記載の治療経過の治療を受けたが、昭和四九年八月末頃、左肩、左肘、左手各関節機能障害、左手指用廃及び左上肢の著しい醜状の後遺症を残して治癒した事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  入院中の付添看護費 二七万二〇〇〇円

前判示傷害の部位程度、治療経過、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると原告の妻木村寿々は原告入院中の昭和四八年六月一八日から同年一〇月三一日までの一三六日間付添看護をした事実が認められるので一日二〇〇〇円として二七万二〇〇〇円の損害を受けたと認める。

(三)  入院雑費 七万八〇〇〇円

前判示原告の入院状況に照らすと原告は入院中七万八〇〇〇円の入院雑費を要し損害を受けたと推認できる。

(四)  通院交通費 四六八〇円

前判示通院状況及び原告本人尋問の結果によると原告は通院交通費として原告主張の四六八〇円程度の損害を受けたと推認する。

(五)  逸失利益(請求の原因三(四)(五)に対する判断)

前判示傷害の部位程度、治療経過、後遺症、前掲甲第三号証の一、二及び原告本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。原告は明治三六年七月一日生(事故当時六九才)で、本件事故前は、鉄工所のきり落しの鋼材金属スクラツプを回収して製鋼所へ納入することを職務内容とする廃品回収業を営み、かたわら、女婿の営む株式会社玉生(寿司屋用の卵焼き)の記帳等の庶務を担当していた者であるが、本件事故により昭和四八年五月二九日以後労働能力の全部又は一部を喪失したものと推認し得る。そして原告の右就労状況及び年令等を勘案すると、昭和四八年五月二九日から昭和四九年八月二九日までは昭和四八年賃金センサス男子全労働者六五才以降の平均賃金、昭和四九年八月三〇日以降五年間は昭和四九年の同平均賃金を基礎とし別紙計算書のとおりの労働能力の喪失があつたものとするのが相当であり、右逸失利益の合計は三三七万三二七二円となる。

(六)  慰藉料 五〇〇万円

前判示原告の傷害の部位程度、治療経過、後遺症、年令その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情によると本件における原告の慰藉料は五〇〇万円が相当である。

(七)  以上(二)ないし(六)の損害の合計は八七二万七九五二円となる。そして原告に本訴請求以外の損害として、治療費(昭和四八年五月二九日から同年九月三〇日までの分)二三万九〇一〇円並びに付添費(昭和四八年五月二九日から同年六月一七日までの分)五万九八三〇円が生じたことは当事者間に争いがない。以上の総損害は九〇二万六七九二円となる。

四  過失相殺と損害の填補

そして前判示原告の不注意を一割斟酌すると八一二万四一一二円となり、原告が自賠責保険から二五二万九八四〇円(原告車分二二二万九七五〇円、被告車分三〇万〇〇九〇円)を填補受領したことは当事者間に争いがないのでこれを控除すると五五九万四二七二円となる。

五  弁護士費用

弁論の全趣旨によると原告は、被告らが任意の支払に応じないので本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し弁護士費用の損害を受けたものと認められるが、本件訴訟の経過、難易度、認容額その他諸般の事情を斟酌すると本件事故と因果関係のある弁護士費用の昭和四八年五月三〇日の現価は六〇万円を相当と認める。

六  結論

以上説示のとおりであるから原告の本訴請求は結局六一九万四二七二円及びこれに対する昭和四八年五月三〇日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮良允通)

逸失利益

(1) 48・5・29~49・8・29

(7万8000×12+20万8000)×15/12=142万9999

(2) 49・8・30~50・8・29

(9万8300×12+26万5600)×0.5=72万2600

(3) 50・8・30~51・8・29

(9万8300×12+26万5600)×0.3=43万3560

(4) 51・8・30~3年間

(9万8300×12+26万5600)×0.2×2.7232=78万7113

(1)+(2)+(3)+(4)=337万3272

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